パロディとかTwitterネタを収納する部屋
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「吸血鬼」
「そうです、お嬢様」
庭に作った四阿を抜ける風が、初夏の少し熱を持った空気を爽やかに押し流す。
レモネードを入れたグラスの氷が溶けてからん、と涼しげに鳴る。
吸血鬼、だなんて珍しい生き物のことを――生き物、で合っているのかな?なにせ相手はアンデッドらしいのだ――メイドが口にしたのは、書類整理をひと休みした午後のことだった。
「この城にいるって言うの?まさか」
「噂話です、お嬢様。けれど言い伝えでもありますわ」
「吸血鬼、ね…」
ナンセンスだと思う。
彼らはずいぶんと数を減らしているらしい。
それならまぁ、この城にいないと言い切ることはできないかもしれないけれど、いるだなんて言えるわけがない。
そもそもそんなモノがいたら噂話どころでなくもっと騒がれているだろう。
いくらアンデッドと言われても食事をしないわけにはいかないのだから。
そうして、吸血鬼の食事といえば…人の、血液だ。
夜歩きのアンデッドが食事をしていれば被害の訴えも出てくるはず。
すくなくともボクはそんな話は聞いたことがない。
「いないと思うけどね、ボクは」
「お嬢様。自分をボクだなんて言ってはいけませんよ」
「公式の場ではちゃんと言ってるじゃないか」
「その口調も!もっと普段から女性らしくしないといけませんわ。うっかり猫を被りきれなかったらどうするんです」
「大丈夫だよ」
猫って。
「あのねミザリー。ボク、一応社交デビューはしているし、これからはこの城の主なんだよ」
「存じ上げておりますわ。社交デビューのドレスを着せたのは私ですから」
しゃんと背筋を伸ばして堂々と言う彼女はボクが産まれた時から側にいるメイドだ。
誰よりも世話になっているし、色んなことを知られている。
同じようにボクも彼女のことはよく知っているけれど…これは、長いお説教の予感がする。
なにか気を逸らすもの…ああ。
「ねぇ、ミザリー」
「なんです、お嬢様」
「その吸血鬼の…言い伝え?って、なんなの」
「興味がおありで?」
「ていうか、この城に関することなんでしょう。知っておいて損はないよね」
「まぁ、そうですわね」
小さく首を傾げて彼女は口を開いた。
曰く、この城の地下室には不死身の吸血鬼が封じられている、とかなんとか。
不死身って、もともと吸血鬼は死なないんじゃないのかと言ったら、どうも普通の吸血鬼より強いみたいですわよと返された。
言い伝えだか噂話だか知らないけれどずいぶんあやふやな話だ。
不死身の吸血鬼がなんだかよくわからないけれど、たぶんやたら狂暴だったり回復の早いタイプの吸血鬼が昔いて、それを当時の城主が退治なりしたってことなんだろう。
「今もいるのかな」
「ゾフィさま」
「なに?懐かしい呼び方だね」
「…ザフィーアさま、城主さま。いくら興味がおありだって、地下を探そうだなんて思わないでくださいましね」
「おや」
彼女の様子があまりに真剣で、思わず苦笑する。
レモネードがよく冷えておいしい。
「どうして?」
「危ないでしょう、そんなもの。いなくったって地下は暗いしなにがあるかわかりませんし、もしいたらどうするんです」
「いたら?うーん、どうしようかな」
「どうしようかなじゃありません。くれぐれも止してくださいね」
「わかったよ。…この話は、おしまい」
さあ、山積みの書類とまた向き合ってこなくては。
「そうです、お嬢様」
庭に作った四阿を抜ける風が、初夏の少し熱を持った空気を爽やかに押し流す。
レモネードを入れたグラスの氷が溶けてからん、と涼しげに鳴る。
吸血鬼、だなんて珍しい生き物のことを――生き物、で合っているのかな?なにせ相手はアンデッドらしいのだ――メイドが口にしたのは、書類整理をひと休みした午後のことだった。
「この城にいるって言うの?まさか」
「噂話です、お嬢様。けれど言い伝えでもありますわ」
「吸血鬼、ね…」
ナンセンスだと思う。
彼らはずいぶんと数を減らしているらしい。
それならまぁ、この城にいないと言い切ることはできないかもしれないけれど、いるだなんて言えるわけがない。
そもそもそんなモノがいたら噂話どころでなくもっと騒がれているだろう。
いくらアンデッドと言われても食事をしないわけにはいかないのだから。
そうして、吸血鬼の食事といえば…人の、血液だ。
夜歩きのアンデッドが食事をしていれば被害の訴えも出てくるはず。
すくなくともボクはそんな話は聞いたことがない。
「いないと思うけどね、ボクは」
「お嬢様。自分をボクだなんて言ってはいけませんよ」
「公式の場ではちゃんと言ってるじゃないか」
「その口調も!もっと普段から女性らしくしないといけませんわ。うっかり猫を被りきれなかったらどうするんです」
「大丈夫だよ」
猫って。
「あのねミザリー。ボク、一応社交デビューはしているし、これからはこの城の主なんだよ」
「存じ上げておりますわ。社交デビューのドレスを着せたのは私ですから」
しゃんと背筋を伸ばして堂々と言う彼女はボクが産まれた時から側にいるメイドだ。
誰よりも世話になっているし、色んなことを知られている。
同じようにボクも彼女のことはよく知っているけれど…これは、長いお説教の予感がする。
なにか気を逸らすもの…ああ。
「ねぇ、ミザリー」
「なんです、お嬢様」
「その吸血鬼の…言い伝え?って、なんなの」
「興味がおありで?」
「ていうか、この城に関することなんでしょう。知っておいて損はないよね」
「まぁ、そうですわね」
小さく首を傾げて彼女は口を開いた。
曰く、この城の地下室には不死身の吸血鬼が封じられている、とかなんとか。
不死身って、もともと吸血鬼は死なないんじゃないのかと言ったら、どうも普通の吸血鬼より強いみたいですわよと返された。
言い伝えだか噂話だか知らないけれどずいぶんあやふやな話だ。
不死身の吸血鬼がなんだかよくわからないけれど、たぶんやたら狂暴だったり回復の早いタイプの吸血鬼が昔いて、それを当時の城主が退治なりしたってことなんだろう。
「今もいるのかな」
「ゾフィさま」
「なに?懐かしい呼び方だね」
「…ザフィーアさま、城主さま。いくら興味がおありだって、地下を探そうだなんて思わないでくださいましね」
「おや」
彼女の様子があまりに真剣で、思わず苦笑する。
レモネードがよく冷えておいしい。
「どうして?」
「危ないでしょう、そんなもの。いなくったって地下は暗いしなにがあるかわかりませんし、もしいたらどうするんです」
「いたら?うーん、どうしようかな」
「どうしようかなじゃありません。くれぐれも止してくださいね」
「わかったよ。…この話は、おしまい」
さあ、山積みの書類とまた向き合ってこなくては。
PR
ぎ、と軋んだ音をあげながらそれの蓋がゆっくりと持ち上がる。
…重い。見た目通り。
なにしろ蓋は分厚い木の板、しかも自分の身長よりも大きいのだから重さは充分すぎるほどあるだろう。
その上、地下に置いてあるせいで間違いなく湿気を吸っている。
「…………」
ランプの火は遠い。
明かりを点す台はあるけれど、すぐに出るつもりだったから持ってきたランプだけが光源だ。
そのランプだって、倒したりしてスカートに火が移ってはかなわないから自分から少し離して置いてある。
そんな、遠い明かりの中でだって…そこにあったモノに目を奪われた。
棺桶に眠る、吸血鬼に。
…重い。見た目通り。
なにしろ蓋は分厚い木の板、しかも自分の身長よりも大きいのだから重さは充分すぎるほどあるだろう。
その上、地下に置いてあるせいで間違いなく湿気を吸っている。
「…………」
ランプの火は遠い。
明かりを点す台はあるけれど、すぐに出るつもりだったから持ってきたランプだけが光源だ。
そのランプだって、倒したりしてスカートに火が移ってはかなわないから自分から少し離して置いてある。
そんな、遠い明かりの中でだって…そこにあったモノに目を奪われた。
棺桶に眠る、吸血鬼に。
<<
前のページ